嚥下とは

食べ物を口から胃に送り込むことを「嚥下」と言います。
一般的には「飲み込み」という言葉で知られています。
食事をする際、私たちは無意識のうちに、目で食べ物を認識し、口に運び、噛み、飲み込みます。
嚥下は、非常に複雑なしくみで成り立っており、口・のど・食道、さらには脳や神経、筋肉が連携して初めてうまく機能します。そのため、どこか一箇所でも不調があれば、飲み込む力が低下し、さまざまなトラブルが起こるのです。

嚥下障害とは

食事中にむせることが増えた、水やお茶が気管に入りそうになる、食べ物がのどに引っかかる感じがする。――そんな経験はありませんか？
年齢を重ねると、身体のさまざまな機能が衰えていきますが、飲み込む力（嚥下機能）の低下もその一つです。嚥下障害は、単なる老化現象と思われがちですが、時に命に関わる問題にも発展するため、早めの気づきと適切な診療がとても大切です。
ここでは、当院が専門的に取り組む「嚥下機能検査」についてご紹介します。

嚥下障害の主な原因

嚥下障害の原因は大きく2つに分けられます。

1つは「加齢による筋力低下」
高齢者にもっとも多く見られるのが、加齢によってのどや舌の筋肉の動きが衰え、飲み込む力が弱まってしまうケースです。

もう1つは「病気による機能障害」ですが非常に多くの疾患が嚥下障害を引き起こします。
以下はあくまで1例です。

• 虫歯や口内炎などの口の中の病気
• 脳梗塞や脳出血といった脳の病気
• パーキンソン病や筋萎縮性側索硬化症などの神経・筋疾患
• 咽頭がんや食道がんなどの腫瘍
• うつ病やストレスなどの精神的疾患

嚥下障害がもたらすリスク――誤嚥性肺炎と栄養障害

嚥下障害は「食べづらい」といった単純な不便さにとどまりません。飲み込む力が弱くなると、食べ物や飲み物が胃ではなく誤って肺に入り込んでしまうことがあります。これが「誤嚥（ごえん）」と呼ばれる状態で、放置すると「誤嚥性肺炎」という肺の感染症につながることがあります。特に高齢者では、咳反射や免疫力も低下しているため、肺炎が重症化しやすく、命に関わる深刻な状態になることがあるため注意が必要です。
また、食事がうまく摂れなくなることで、体に必要な栄養素が十分に吸収されなくなり、体重が減ったり、筋力が低下したりします。さらに、栄養不足が続くと免疫力も落ち、風邪をひきやすくなったり、感染症にかかりやすくなったりと、全身の健康状態に悪影響を及ぼします。このように、嚥下障害は「飲み込めない」という問題にとどまらず、全身の体力や健康を左右する大きなリスクにつながるのです。

外来で行う評価と診断

当院の外来では、専門的な検査を通じて嚥下の状態を詳しく評価します。
主な検査は嚥下内視鏡検査です。鼻から細いカメラを挿入し、のどの奥の状態を直接観察しながら、食物がどのように通過しているかを評価します。唾液の貯留の程度まで正確に評価できるメリットがあります。
この結果をもとに、一人ひとりに最適な治療・リハビリ計画が立てられます。

治療とリハビリテーションのアプローチ

嚥下障害の治療には、原因に応じて以下のような方法が用いられます。

嚥下リハビリ

特に当院の院長は嚥下リハビリテーション学会認定士の資格をもっており、患者様一人一人に最適なリハビリプログラムを提示することができます。
主に2種類のリハビリ法があります。

食べ物を使わない間接嚥下訓練

飲み込む力を高めるために、のどや舌、顔周囲の筋肉を動かす体操やトレーニングを行います。また、呼吸のコントロールや発声練習も、誤嚥防止につながる重要な方法です。自宅で続けられるように、やさしい内容から指導していきます。

食べ物を使った直接嚥下訓練

誤嚥を防ぐためには、食べ物の形ややわらかさを調整することが大切です。たとえば、とろみをつけた飲み物や、細かく刻んだ料理を使います。また、食べるときの姿勢や、一口の量、食べるスピードにも注意を払います。必要に応じて、栄養士による指導も行われます。
薬物療法・外科的治療：嚥下障害の背景にある病気が神経や筋肉の働きを低下させている場合は、それに対しての薬物療法を行います。腫瘍や構造的な異常がある場合は、手術によって飲み込みの通り道を改善することもあります。治療は耳鼻咽喉科を中心に、他の専門医とも連携して進めます。

予防

嚥下障害は進行性であることも多く、放置することで重症化する恐れがあります。そのため、「最近むせやすくなった」「食後に咳が出る」「体重が減ってきた」といった小さな変化に早く気づくことが重要です。
また、介護が必要な方や高齢者は、家族や周囲の人が異変に気づいてあげることも大切です。当院では予防の観点からの評価やアドバイスも行っています。